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エトセトラ

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振り返れば一瞬の出来事のように思える数々の思い出

船旅 南半球一周 (4) シンガポール 脅える喫煙族

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33年ぶりのシンガポール

横浜を出て11日目、夫婦はシンガポールにいた。

121日というのに陽光は眩しく暑い。

面積は埋め立てで30年前より20%増えたというが、外務省のデータによれば面積は東京の23区と同程度、人口は約540万人の小国である。

2人にはこの国に思い出がある。45日の海外旅行で33年前に訪れた。この時はマレーシアにも足を運んだが、シンガポールの方が印象に残っている。2人とも30代半ば、思えば若かった。

☆英国統治時代のよき名残り

オーチャード通りの近くにあった外壁を白く塗った石造りの瀟洒な建物のレストランに入った。客の姿はなく、天井に据えられた大きな扇風機がゆっくりと回っている。室内は静寂そのもの。一瞬、場違いな空間に紛れ込んだと思い、自分たちには「高級すぎる」とひるんだ。

食べたものが何であったか、今では記憶から抜け落ちてしまっているが、初老の中国人ウェイターのことは覚えている。純白の制服に身を包み、左腕に真っ白なナフキンをかけて足音もたてずにテーブルに近づいてきた。我々の前に来ると、腰を軽く折った姿勢になってカタコトの英語にじっと耳を傾け、注文を確認してから、「イエス・サー」と言い残し、また静かに去っていった。物腰はやわらか、あらゆる動作が丁重そのものであった。これは英国統治時代のよき名残りなのではないか、と感じ入ったものである。

☆記憶に残る苦い思い出

インド人街にも顔を出した。日傘兼用にと傘を1本求めた。サリー姿の若い女性店員がにこやかに対応してくれて気分よく青い色のものを購入した。結婚して12年目、久しぶりの相合傘で歩き出して数分後、スコールに出会った。妻が「あなたのYシャツが青く染まっている」と言う。傘の塗料が雨で溶けだしていた。妻のブラウスも青色の斑点模様となった。

似たような話は今回も聞いた。愛煙仲間「スー族」の一人、68歳の男性は3日前に入港した初の寄港地・ボルネオ島コタキナバルで、6千円相当の運動靴を買った。ところが、「1日履いたら靴底がはがれて使い物にならなかった」と嘆き、仲間の笑いを誘った。

夫婦はこの日9時半に下船した。

かつて見た街並みは様変わりしていた。立ち並ぶ高層ビル、地下鉄、高速道路。港湾施設も整備されて巨大なガントリークレーンが林立している。コンテナーは9段積みである。

「日本では4段積み。地震があるからです。ここでは地震の心配はありませんから」とガイド歴27年の日本人女性。ちなみに高層ビルも耐震構造ではないという。

シンガポールの取り扱い貨物量は6年前まで世界第1位だった。いまは上海についで世界第2位に後退したが、世界の流通ハブ拠点であることに変わりはない。地理的条件もあろうが、4段積みがやっとの国と、9段積みが当たり前の国との貨物量の差は明白。横浜港など日本の主要港の地盤沈下もうなずける。

☆「昭南島の歴史を学ぶ」コース

埠頭には船客を乗せるバスが20台ほど並んでいた。壮観であった。

シンガポールでのオプション観光コースは、九つ。夫婦が選んだのは「昭南島の歴史を学ぶ」。昭南島とは、第二次大戦中、日本軍が占領した時期に日本がつけたシンガポールの呼び名だ。このコースの参加人数は40人。チャンギ博物館、日本人墓地、血債の塔、マーライオン公園を回る。

博物館の展示は、日本人が知らない日本軍占領の歴史を伝えている。市民の首を晒した写真などのほかに「シンガポールのシンドラー」と称される日本人FUJISAKIの紹介バネルもあってどこかの国の展示とは違った視線が感じられた。年配者が多い参加者の中で目を引いたのは10代から20代の女性3人。展示物にショックを受けた様子だったが、若い世代が、他国の人が見る「日本の歴史の一断面」に触れることは、この先の人生に何らかの価値をもたらすのではないか。

☆親子2代で守る日本人廟

血債の塔は、「日本占領時期死難民記念碑」と言われる。ここでは皆で黙祷をした。

19世紀後半、東南アジアに渡って娼婦として働いた日本人女性「からゆきさん」たちの墓もある日本人墓地。廟は現地の人が守っている。いまは2代目。周囲に白眼視されながら供養を続けた父親を継いでいる。男は、この親子の存在を脳裏に刻みこんだ。

墓地の周囲は高級住宅に囲まれていた。国土の狭い、この国では一等地である。ガイドは「政府からの借用期限が迫っている」という。さまざまなことが男の胸に去来した。

ツアー最後のマーライオン広場で男は煙草に火をつけた。もちろん灰皿がある場所である。すると、40代とおぼしき中国人男性が寄ってきた。ツアーガイドで雲南省からシンガポールとマレーシアの旅に中国人旅行客を引率して来たという。男の感覚から言うと、雲南省はミャンマーに接する奥地ではないか。都市と地方の格差か話題になる中国だが、地方でも豊かになった人たちが増えているという証左なのか。

☆喫煙に厳しいとの評判

ところで、喫煙に厳しいのがシンガポール。日本人愛煙家からは敬遠されている国だ。しかし、地球一周となるとシンガポール寄港は避けられない。寄港前日の事前説明会では「煙草は1本から課税、チューインガムは禁止」と言われた。男は義歯を使うようになってから、チューインガムを敬遠している。入れ歯に固着して楽しめない。しかし煙草のことは気になる。説明会後に船の後部デッキの喫煙スペーに立ち寄ったクルーズ・ディレクター、38歳の男性の話は強烈なパンチだった。

2年前にひと箱とライターを没収された」。

この話に喫煙グループ「スー族」は狼狽した。

ライターが駄目となるとマッチしかない。男は百円ショップで3箱購入し船に持ち込んでいた。マッチの出番がきた。2箱を仲間の女性に分けて、1箱は自分用とした。さらに1本ずつ課税されてはまずいと、日帰り観光中に必要な最低本数だけ持つことにした。大騒ぎである。

そして本日朝、船の5階舷門から上陸した。ターミナル2階に入り、入国審査、手荷物検査を経ても、ご下問はない。拍子抜け、フリーパスであった。「没収がないのは、たまたまということか」と疑問に思いつつ、バスに乗り込んだ。さらに、である。マーライオン広場では、灰皿がここかしこに置いてある。喫煙族にとっては、いい意味で話が違った。

夫婦は16時半、帰船した。夕食までは間がある。男はスー族のたまり場に急いだ。航海中は顔なじみが集まり、いろいろな情報を持ってくる。この日は、女性陣から異なる話がもたらされて男性陣を驚かせた。

☆難しい女性4人部屋の「平和」

4人部屋の女性たちが31に分かれて、のけ者になった1人を追い出す「事件」が2件あったというのである。事実を確認はしていない。しかし、ありそうなことだと思う。

2段ベッドを2つ入れた4人部屋は当然、男女別になっている。ペアタイプより安いので、夫と妻、別々に4人部屋を利用することも出来る。このアイデアを実現した奥さんは「2人で百万円は節減できた」と言っていた。

話を戻す。船室を共有する4人は、この船旅で初めて顔を合わせる人たちがほとんど。相性がよければいいが、現実は、そうはいかない。問題は仲間外れにされた1人。船旅を継続したい場合は、3人しか利用していない4人部屋に移れればいいが、1人部屋や2人部屋に移るしかないとなると追加料金を請求される。

この2件はどうなったのか。結末はわからない。男性の4人部屋で似たようなトラブルがあったという話は航海中、耳に入ってこなかった。

船酔いが激しく、シンガポールで下船して帰国した女性が1人いたという情報もあった。男の妻も乗り物に酔いやすい体質である。

イタリア旅行では景勝地のアマルフイーに向かう海沿い道は、日光の「いろは坂」に似ていた。バスは大きく左右に揺れながら進行した。街が見えだしたときに妻は吐いた。タイのリゾート地・プーケット島ではシュノケーリングをするために小舟に乗った。このときも酔った。舟縁で海に吐き出したものは熱帯魚の餌となった。

もっとも、これは体質だから、どうしようもない。いつどこで不快感に襲われるのかは本人もわからない。心配してもどうしようもない。男は出たとこ勝負と腹をくくった。(次回は「海賊の海」)



by hirookuyam | 2018-08-13 16:52 | 地球一周

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