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エトセトラ

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振り返れば一瞬の出来事のように思える数々の思い出

船旅 南半球一周  (8)喜望峰、大西洋はどっち?

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☆多彩な船上講演

この船旅では寄港するたびに主催者が「ゲスト」と呼ぶ人たちが交代で乗り組み、洋上で講演を行った。この船上講演は、空路利用、スピード重視の海外ツアーにはない催しであった。ゲストの1人、シンガポールから乗船したアフリカ取材30年、73歳の日本人ジャーナリストはナミビアで下船するまで7回の講演を行った。各回80分。落ち着いた語り口、ナマの体験を交えた具体例、説得力ある構成だから、毎回満員の人気、夫婦にとっても楽しい講演であった。

テーマは多彩だが、記憶に残ったひとつは南アフリカ共和国(以下、南ア)の大統領の話。別のゲスト、国際的なボランティア活動をしている日本人女性もこれに触れた。2人の船上講演を繋ぎ合わせると、こうなる。

☆マンデラから四半世紀、腐敗する南ア

南アと言えば、マンデラが有名だ。彼は人種差別政策と闘い、初の黒人大統領となった。そして15年で権力にしがみつくことなく潔く辞めた。しかし、次の黒人大統領ムベキは2期目から不正蓄財を始めた。現在の黒人大統領はムベキに続いたズマで2期目に入ったが、私邸にプールを作るなど、明らかに現政権は腐敗している。アパルトヘイト撤廃から四半世紀。早くも政権の腐敗、堕落が表面化している。

紹介された南アの「世界一」は、ノーベル平和賞4人、リベラルな憲法のほかは、暗澹たる指標ばかり。HIV感染者数、レイプ事件、殺人事件数、生活保護者数、経済格差など。

世界初の心臓移植手術を行った国だけに、日本から外科医が3か月交代で技術習得のため留学してくる、という。これは誇らしいことではないかと思ったが、しかし、理由がひどい。日本では3年かかる手術件数を3か月で経験できるからだという。いかに治安が悪いかがわかる。

ゲストの日本人女性は南アに2年住んでいて、「より安全なところに住みたい」と語った。モザンビーク・マプトから幼子を同伴しての乗船であった。切実な願いが伝わってきた。南アからのゲスト「ブラケー」が語った言葉が、脳裏によみがえった。「マンデラの理想はただの理想に終わった」

☆治安悪く、ひとり歩きは厳禁

本船は12236時、南ア・ケープタウン港に着いた。夫婦は舷側に出て、頂きが平らなテーブルマウンテンにカメラを向けた。そしてオプション9コースの中から、喜望峰、アザラシ島、ペンギンコロニーのある砂浜を見学する243人の集団に入った。1人歩きは厳禁、集団行動が強く求められた。

バスに同乗した現地ガイドは、南ア在住の日本人男性。バスが出発して間もなく、男は眠気に襲われて白河夜船。盛大な拍手の音で目覚めた。隣席の妻は「アパルトヘイトについて素晴らしい演説だったわ」と男を侮辱したように言う。「それは残念、要点は?」と尋ねると「具体的な内容は忘れた」。あっけらかんとした答えが返ってきた。

☆世界1、算数が苦手な国

ボールダーズ・ビーチに45分後に着いた。出入りのゲートで係員の若い黒人女性にガイドが入場券の束を手渡した。彼女は数え始めたが、何回もやり直す。船上講演で「世界一、算数が苦手な国」という紹介もあった。「数えられないのでしょ」とガイドに伝えると、彼は「ここは日本ではありません」と男をたしなめる様に言いつつ、ゲート近くに姿を見せた黒人男性に手を振って声をかけた。顔なじみなのだろう。即座に入場出来た。

ケープ・ペンギンは胸に黒の斑点と縦縞が特徴、小柄だけに一層可愛い。生息地に縦横に架けられた木組みの通路を巡る。真夏、野生のペンギンとの出会いであった。つがいになると一生連れ添うという。はてさて我々は、どうなるのか。

次はケープポイント。ケーブルカーで展望台へ。そこで船客仲間の女性たちと出会った。56日のオーバーランドツアーでモザンビーク・マプトからクルーガー国立公園、ビクトリアの滝を回って我々と合流した一行であった。お互いに名前は知らぬが、顔なじみである。「お久しぶり」と握手の連続。中の1人が「ホテルも料理も素晴らしかった。けれど、ほとんど食べられなかった」と嘆いた。マダガスカル以来の“腹下り”は続いていた。

☆インド洋と大西洋の分岐点

ケーブルカーを下りると、展望台までは脚力を生かして登る必要があるとわかった。山好きの妻はさっさと上へ。男は後を追うが速度は遅い。7か月前、鹿児島県・屋久島の山中でも、かつての山男が高齢になって「女性にかなわなくなった」としょんぼりとしていた姿が脳裏をよぎった。

妻に追いつき、2人で展望台に立つ。雲一つない大空の下、群青の海が広がっている。インド洋と大西洋の分岐点にある喜望峰が眼下にある。方向音痴の妻が「大西洋は右なの?」と聞いてきた。男とて外地のここに来て、わかるはずがない。「左右ではなく、『どちらが西ですか』とガイドに聞いたらいかがでしょうか」と逃げた。

下山してから喜望峰へ。アフリカ大陸の「最南西端」である。間違えやすい「最南端」は「アグラス岬」で200km離れているそうだ。夫婦にとってはどうでもいい話だった。

喜望峰の横長の表示板がある場所に来た。黒人の家族が表示板を入れて記念撮影の真っ最中。男は表示板の端に立ち、妻に撮影を依頼した。黒人一家がチラチラと横目で男を見て、迷惑がっていたとは、後に妻から聞いた。

この日の最後は遊覧船に乗った。1台のバスの乗客は3隻に分乗して沖へ。岩礁を褐色の肌で埋め尽くしたアザラシの群れ。圧倒的な野生の迫力。彼らは我々を警戒することなく、悠々と寝そべったり、泳いだり、鳴いたり、気ままに動いていた。我々は撮影を終えてUターンをしたが。アザラシにすれば邪魔者の退散といったところだ。

☆途中帰国、スー族仲間の送別会

帰船は18時半。窃盗などの被害がなかったことは幸いであった。本船は22時、碇を上げた。

1224日、快晴。夫婦にとって南半球で初めて迎えるクリスマス・イブであった。船上で関連の催しがあった。2人は参加しなかった、「おミサに行く」と教会にいそいそと出かけた熱心なクリスチャン、亡き母を偲べば、お祭り騒ぎのような催しには関心が向かない。

25日は前日のイブとは一転して、空には雨雲、肌寒く、男はコートを着込んでデッキに出た。そこには「スー族」仲間との語らいが待っていた。

単身乗船の81歳の男性が、翌日入港するナミビアで下船、空路帰国するという。横浜で乗り遅れ、神戸で乗り込んだ青森県人である。本日は船旅最後の日。人生の先輩を、この夜、一人にしておくのは忍びない。その場にいたメンバーで「送別会をしよう」と衆議一決、場所は9階の居酒屋「波へい」と決めた。

朝昼晩の3食、朝のコーヒーと午後のティーを提供する「ビュッフェレストラン」の青天井のデッキ部分を17時半から「波へい」と称して営業している。テーブルが6卓ほど並ぶ。夜は波の音を聞き、星空を見ながらアルコールをたしなめる。そのうえ、店が保管する「ボトル」の形で購入すれば、水も氷も無料だから、酒好きには気楽に楽しめる素晴らしい空間だ。ちなみにボトル1800mlの値段は「いいちこ」が2,550円、「銀座の雀」が2,600円、「雲海」が3,312円。だいたい1本を1か月かけて飲む人が多かった。

☆乗船の夜、意識失い倒れた青森県人

男は「波へい」に妻を連れて参加した。ほかに夫婦1組、単独乗船で、たまたま相部屋となった男性2人。64歳から76歳の計6人が青森県人を囲んだ。

地球一周の船旅は8回目。「南半球ではマダガスカルに行ったことがなかった。どうしても見たかった」が今回の乗船動機だった。だが「娘に猛反対されてね」という。元気に見えても杖を手離さない。高齢でもある。「さもありなん」と皆は納得した。

心臓にペースメーカも「入れている」とも。このことは、いまや、世間でよく聞くことだ。しかし、続く言葉に驚いた。

「神戸で乗船した日の夜、意識を失って倒れちゃった。診療室に運び込まれて、治療をうけたら回復した」。初耳だった。

この日は神戸から数えて34日目。この間、煙草は吸っていたし、酒もたしなんでいた。「本当ですか」という声があがった。「娘」さんの心配は、もっともなことであった。

(次回は「砂漠の国ナミビアは海も楽しい」)



by hirookuyam | 2018-08-13 16:36 | 地球一周

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